ヒロインの条件


「山本さん、買い物?」
佐伯さんの冷静な声が聞こえる。こういうとき、佐伯さんって本当に動揺が外に出ない。私も見習いたいぐらいだ。

私は佐伯さんの背中から1メートルぐらい離れて、そっと聞き耳を立てた。自分がここにいるのがバレるんじゃないかって、ハラハラする。

「近所のスーパーには売ってないものがたくさんあるので、最近ここでちょっとお買い物するの。塩見さんってもしかしてここのマンションに住んでる?」
「え、なんで?」
「もうスーツじゃないから」
山本さんのかわいい声が聞こえる。

「そう、ここに住んでるよ」
佐伯さんは観念したのか正直に話した。

「何階?」
「3階」
佐伯さんも、嘘をつけないタイプかな? 結局正直に全部話しちゃってる。

「会社近くて便利だね」
「うん」
「じゃあまた」
山本さんは思いの外、すんなり佐伯さんから離れた。私は胸に両手を当てて呼吸を整える。ああ、ドキドキした!

佐伯さんは私の腕を掴んで「こっち、行こう」と山本さんと反対側へと歩き出した。度々後ろを振り返って、山本さんに見られていないか確認する。

「俺レジ行ってくるから、エレベーターのところで待ってて。山本さんに見つからないで」
「はい!」
スリリングだけど、なんだか楽しい。