佐伯さんって、脇の甘い人だな。思わずクスッと笑ってしまう。

こんなにすぐにばれちゃって、おかしい。私から西島さんに言うのはダメだけど、もう隠すのも辛いから本人から正体を明かしてほしいなあ。

「聞いてみれば?」
私が提案すると、西島さんの顔がボッと火がついたみたいに真っ赤になった。

「無理……」
西島さんが顔を覆う。

「なんで? 社長ですか?って聞けばいいだけだよね」
「それで『正解』って言われたら!?」
西島さんがキッと顔を上げて、私に詰め寄る。

「推理が当たってよかったな〜って、なるでしょ?」
「じゃあ、野中さんが聞いてきて」
「はあ?」

私は驚きすぎて間抜けな声を出してしまった。「なんで私が」

「私聞けない……だって、社長だったらどうやって話したらいいかわかんないんだもん」
まるで小さな少女のように、西島さんがうつむいた。「憧れの人なの」

西島さんの様子を見ながら、私は佐伯さんが正体を隠すのがわかる気がした。せっかく仲良くなっても、立場がわかると一線ひかれるから、それが嫌なんだ、きっと。

「だから聞いてみて、ね?」
西島さんに一生懸命頼まれて、ダメとは言えない性格だ。私は押し切られて「うん」と頷いてしまった。