一ノ瀬さんはひとり暮らしらしい

(大丈夫かな、入って)

「おじゃましまーす」

「待ってて、タオル持ってくる
てきとーに座ってて」

「ありがとう」

結局、傘が想像以上に小さく
2人とも濡れてしまった

(これ…誰だろう)

部屋の片隅に、一ノ瀬さんと2人で写っている
写真があった

(元カレかなんかかな?)

そのわりには、年の差がある気がする
すごく大人っぽい

「…あーそれ、見ちゃった?」

ほい、タオルと言いながら
彼女は写真立てを倒した

「…誰か聞いてもいい?」

「…元カレじゃないよ」

2人ともピースしていた
でも、男の方の手には指輪が
ついていた気がする

「好きだった人?かな」

一ノ瀬さんの言い方から、まだ諦めきれてないというのが伝わってきた

「まだ好きなの?」

自分で聞いたのに、胸が痛い

(今まで一ノ瀬さんみたいなタイプがいなかったから、少し気になっていただけだ)

言い聞かせた
無意味なことはしない主義なのに。

「意外と鋭いよねー、あんた」

まー、座ってと言いながら
少し切ない顔をした

「まぁ、無理なこと知ってるんだけどね」

ギュッ

思わず抱きしめてしまった
すぐに折れてしまいそうなほど、
彼女は細かった

「…あんた、意外と男っぽいんだねー
いいよ、慰めなくて」

そういうつもりじゃなかった
ただ、
…ただ?

嫉妬、僕を見てほしいという独占欲

(恋してんじゃんか、もう)

「たぶん、その人とよく遊んでたから
って言っても何年も前だけどね」

恋をしてる君は、気まぐれな猫なんかじゃなかった

(ホントに好きなんだな)