世界から音が消えた。

酷くゆっくりと、流れていく。

長い黒髪が扇のようにはらりと広がり、鮮血が花びらのように散った。

私の目には、そう映っていた。


「紫さんっ!!!」


まだ意識があった男の銃弾から我が子を庇った紫さんの身体が崩れ落ちた。

慌てて駆け寄ったりとが、その身体を抱き起こした。


「……璃叶…」


後方に居た陽向さんたちが、紫さんを撃った男を絶命させているのが視界の端で見えた。

隣にいた維月が携帯電話を片手に外へと飛び出していく。その後を追って出て行った陽向さんが、救急箱を片手に戻って来た。


「……泣いて、おられるのですか…?」


応急処置をするために服を脱がせようとした陽向さんの腕を、紫さんの細い腕が掴んだ。

紫さんは首を横に振ると、今にも消えてしまいそうな微笑を浮かべ、もう片方の手をりとの頬へと伸ばした。


「…もう、大丈夫。あなたが歩く道を阻む者は、もう、いませんから…」


「なんでっ…、なんで、こんなっ…」


「……泣かないで」