音にならなくたって、声にならなくたって、伝わらなくたって。

あなたのことを忘れてしまっても、憶えていた。

私の心は、あなたへの想いを憶えていたよ。


「ゆず…―――」


彼が何かを言いかけた瞬間、目に映る世界が反転した。

冷たいセメントに吸い込まれるように、体が急降下していく。

自分が落下していることに気づいたときにはもう、視界いっぱいに灰白色の空が映っていた。


(―――さむ、い…)


宙を舞う粉雪が、容赦なくぬくもりを奪っていくというのに、左手は温かい。

何故なのだろう、とたじろぐように目を動かせば、私の左手は彼の手としっかり繋がれていた。


ああ、よかった。

離れることなく、繋がれていた。

まるで、ずっと前からそうしていたように、強く。


「      」


何かが、胸の奥深くから迫るようにのぼってくる。

閉ざされた扉を幾つもこじ開けて、喉を越え、それは私の唇にやって来た。


「―――……い、づきっ…」


もう二度と、あなたをひとりにするものか。