「離すんだ」


やだ、やだよ。

私が手を離したら、あなたは落ちてしまう。

この高さだもの。下手をしたら、命も落としかねないよ。


「柚羽、離すんだっ…君まで落ちてしまうっ…」


心の底から叫ぶような声に、喉が詰まる。

それでも、この手を離すわけにはいかないのだ。


「(やだっ…!)」


どんなに強く握っても、力を籠めても、無意味だと言わんばかりに下に引きずられそうになる。

私はもう片方の手も添えて、より一層力を籠めた。


「柚羽っ……」


ねぇ、維月さん。

諦めないで、この手を握り返して。

私は諦めないから。

絶対にあなたの手を離さないから。


「     」


あなたの名前を呟いた自分の声は今日も無音で、相変わらず音にはならなかった。

それでも、私は必死に叫び続けた。