維月さんは片手をポケットの中に入れると、男を真っすぐに見つめながらゆっくりと頷いた。


「ああ。お前はたくさんの人を手に掛けたからね」


抵抗する術も時機をも失った男は一度維月さんを見ると、薄っすらと微笑みながら静かに目を伏せた。

維月さんは手に持っていた拳銃を構えると、人差し指を引き金に掛けた。

琥珀色の瞳が、悲しそうに揺れる。それに呼応するように、ちらほらと白い粉が空から降り始める。


(…雪……)


雪だ。初雪。まっさらな色をした、雪が降っている。

花びらのように降ってくるそれは、運命を受け入れた男への餞だろうか。

数多の人の命を散らしてきた人生の幕を、維月さんの手によって下ろされる男への、餞別。


「―――ふざけないでよ!!」


その時、肩を押さえながら蹲っていた姉が声を張り上げた。

ゆらりと立ち上がると、気を失っている崇瀬組の男の懐から拳銃を取り出し、足を震わせながら構える。

その銃口は、維月さんではなく私に向けられていた。


「柚羽さえこの世にいなければ、こんなことにはならなかった!柚羽がいたから、柚羽がいたからっ…!」