「お前のせいで、俺の人生は滅茶苦茶になった」


「…俺の所為？ははっ、自分がしたことを棚に上げて、面白いことを言うね。反吐が出るよ」


「ふざけんじゃねえよ。お前が手を回したから、あんなことになったんじゃねえか！」


男は声を張り上げると、ポケットから銀色を放つナイフを取り出し、維月さんへと突き出した。何かに取り憑かれたように無我夢中で振り回しては、狂ったように奇声を上げている。


「―――ふざけるな」


維月さんは軽やかに身を躱すと、ナイフを持っている方の腕を掴んで捻り上げた。そして、男の足の後ろに自身の足を入れ、素早く投げ倒す。

いとも簡単に冷たいコンクリートの上に張り倒された男は、悔しそうに顔を歪めていた。


「…諏訪康煕。あの事件の後、お前を野放しにしたのが間違いだった」


男の手から滑り落ちたナイフは、維月さんの長い脚によって歩道橋の下へと落ちた。その鈍い音を耳にして我に返ったのか、男は消え入りそうな声で呟く。


「……殺しておけばよかったと思ってんだろ」