「…どうもしませんよ」


そうは言っているが、心なしか、声のトーンがいつもよりも低い気がした。


「してるでしょ。一緒に寝るなんて小学生以来だよ」


紫が笑う気配がしたけれど、衣擦れの音にかき消されて分からなくなった。そのうえ電気を消されたから、紫の顔が見えない。


「もう、そんなに経つのですね。…大きくなりましたね」


「紫さん…?」


吐息を吐くような、静かな声だった。

本当にどうしたのかと訊こうとした瞬間、手のひらで頬を撫でられた。


「璃叶。僕はよい父親でしたか…?」


「どうしたんだよ、急に」


「…聞いてみたくなったのです。璃叶は父の日以外、素直になってくれないので」


世の中の父親というのは、たまにこうして息子と寝ては、普段聞けないことを訊いているのかもしれないな、と思った。

だって、声が果てしなく優しかったから。


「…どんなときも素直であれたなら、苦労してないよ、俺」


「はは、そうですね。…寝ましょうか」


その声をさいごに、背を向けられてしまった。

背中越しに伝わってくる柔い温度が、夢の世界へと誘ってくる。

嫌だな、今日はもっと話していたい。そう思って必死に瞬きを繰り返したけれど、欲に勝てずに引きずり込まれてしまった。