春を待つ君に、優しい嘘を贈る。

今日は泣いてばかりだな、私。人に散々迷惑を掛けて、果てには怒らせて。

笑っていたいのに。想いを返したいのに、何にも出来ていないや。

本当に、私って何なのだろうね。


サァ、と冷たい風が吹いた。寂しい音が鼓膜を揺らす。聞き入っていたら、別の音も混じっていることに気がついた。

それは一定のリズムを刻んでいる。徐々に大きくなっている。

何かが、此方へ向かって来ているのだ。それも、恐らく人が。

ごくりと唾を飲み込んだ時、淀んでいる視界に黒い人影が現れた。

何度か瞬きを繰り返せば、目に映る世界が鮮明になっていく。


「(………え)」


夢を見ているんじゃないかと思った。だって、その姿は夢の中でしか見ていないんだもの。

柔らかそうな濡羽色の髪、白い肌、細長い手足。スッと通った鼻筋、形のよい唇、男の人にしては長いまつ毛。

そして、憂うように揺れているのは――…綺麗な琥珀色。