春を待つ君に、優しい嘘を贈る。

音のない言葉を、つらつらと唇に乗せていく。ただでさえ聞こえないものが速くなっては、読み取ろうにも読み取れないと思うのに。

りとは、読み取ってしまうんだ。そうして、自分のことのように悲しそうな顔をする。


「…誰が、アンタにそんなことを言ったの?」


私は力なく笑って、「姉」と唇を動かした。

りとは黙り込んでしまった。長い睫毛を震わせながら、何か考え込んでいる。


これ以上は、駄目だ。これ以上胸の内をりとに曝け出して、甘えてはいけない。

彼にはたくさん助けてもらった。ありがとうの言葉では足りないくらいに。

だから、どうか。これ以上私に優しさを与えないで、りと。


「(りと)」


「…なに」


「(どうして、助けたの?)」


「は?」


「(どうして、私を助けたの?)」


言い終えた後、何とも言い表せない何かが心を蝕む。

切なげに揺れた濃藍から目を逸らさなければ、胸が押しつぶされてしまいそうだった。