春を待つ君に、優しい嘘を贈る。

「…何があったの」


ほろ甘い味に癒された頃、りとは私にそう尋ねた。カップをテーブルに置くと、壁に背を預けている。


「(何がって、)」


「何があったのかって聞いてるんだよ。理由もなくあんな場所にいるわけがないだろ」


バタンとドアが閉まった。その音に驚いた私は、声の主へと視線を動かす。

あの場に居た理由を尋ねてきたりとは、壁に背を預けて腕を組んでいる。

サラリとこぼれた前髪が左目に掛かっているせいなのか、怒っているように見えた。


「(……消えようと、思って)」


「…なんで」


「(要らない、から)」


はたりと落ちる水滴のような小さな声で呟けば、りとは大きく目を見開いて私を見つめた。

何か言おうとしているのか、微かに唇が開いている。でも、何の言葉も紡いでいない。


「(消えてほしいって言われたの。だから、消えようと思った。その前にどうなろうが、どのみち消えるんだからいいかなって)」