春を待つ君に、優しい嘘を贈る。

「…なんだよ、あんた」


突然に現れた青年を見て、男は困惑していた。

私の手を掴む力を強めている。


「…そいつの、先約」


青年は笑う。月のように眩く、優しい笑顔。


「はぁ?先約なわけがないだろ。だってこの子、一人で歩いていたし。誘ったら頷いたしー」


「そいつ、声が出ないがら。頷くのは、“ごめんなさい”って意味」


「知るかよ」


男は唾を吐き捨てた。荒々しく私を引き寄せると、グッと腰を抱いてくる。

それを見た青年――りとは眉根を寄せると、男の前まで歩み寄った。


「アンタが知らないのは当たり前」


「そりゃあそうだろ。じゃ、俺はこの子とホテルに――」


男が私を抱いて踵を返した瞬間、間に割って入ったりとの腕によって、私は男から解放された。


「おい、あんた。ふざけるのも大概に――」


「それは俺の台詞」


りとの鋭い眼光に男は息を飲んだ。
りとは有無を言わせない力で男を突き飛ばすと、私を背に庇い立つ。