「…さて、お前が聞きたいこととやらに答えよう」


繁華街の大通りを抜けた先には、寂れた商店街のような場所があった。その付近にある倉庫のような建物の中に入ると、彼は中に停めてある黒い車の元へと歩み寄った。

胸ポケットから取り出した鍵で助手席のドアを開け、私に座るよう促す。


(…大丈夫、だよね)


会ったのは一度。介抱し、言葉を交わしただけ。名前すら知らない、見知らぬ人だけれど。


「早く乗れ。寒い」


彼は真面目な顔をしてそう言った。

もしも姉と関わりのある人だったら、危険なのではないか。そう思っていたのだが、余計な心配だったかもしれない。

私は助手席へと乗り込んだ。


「暖房…、ああ、これか」


彼は運転席に腰を下ろすと、車のエンジンをかけ、暖房のスイッチを押した。

私は借りていたコートを脱ぎながら、運転席に座る彼の横顔を盗み見た。

歳は…20代だろうか。見た目が怖いから直視出来ないのだけれど、話してみればそれほどおっかない人ではない。