それから、彼は「明るい場所に行こう」と言い、私の手を引いて歩き出した。

その手はこの寒さのせいなのか、温度が感じられなかった。それは恐らく私の手も冷たかったから、という理由があるのだと思うのだが。

人気のない路地裏を抜け、『ANIMUS』がある繁華街の大通りへと出ると、今度こそ彼の手は離れた。


「どうして、あんな場所に居たんだ?」


【友達の家が、繁華街の中にあるんです】


「友達の家?…馬鹿を言うな。この繁華街はお前のような人が来る場所じゃないぞ。その友達とやらは、“普通”の人なのか?まともな人間なのか?」


何を言っているの、この人は。
友達の家…りとの家は、普通の喫茶店だ。普通とか、まともとか、どうしてそんなことを訊かれているのか、意味が分からない。

まるで、ここに住んでいる人たちが普通でない、まともでない人間みたいじゃないか。

彼の言動に違和感を感じた私は、両腕で冷え切った体を抱きしめた。


「…気を悪くさせてしまったなら、謝る。すまない。得体の知れない人間に手を差し伸べてくれたお前が、こっちの世界に…こんな場所に居たことに驚いて」