「…泣いているのか」


柔らかい深みのある声が落ちる。
私は首を横に振り、彼の顔を見ずに頭を下げた。


「……そうか」


彼はただそう言った。私の顎を指先でそっと持ち上げると、何やらジッと見てくる。


「(あ、の…?)」


綺麗な瞳だ。りととも夢の人とも違う輝きを放っている、翠色の瞳。

これは生まれ持った色なのかな。それとも、この色のレンズを着けているのかな。
どちらなのかは分からない。見入ったまま、目が逸らせなかった。


「……すまない」


一際冷たい風が吹いた瞬間、それに乗るかのように彼の指先は離れた。

刹那、どこか寂しそうな瞳で私を見つめると、ふいっと顔を逸らしてしまって。

彼は背を向けたまま、一言「送る」と言い歩き出した。

慌ててその後を追いかけた私は、彼のコートの袖を引っ張った。

助けてくれたことへのお礼が言いたいのはもちろんだが、彼には訊きたいことがある。

私はごくりと唾を飲み込み、ポケットから取り出したスマホに文字を打ち込んだ。

彼はその画面を一瞥したあと、小さく頷いて微笑んだ。


「…怪我はないか?」


【大丈夫です】


「そうか」