春を待つ君に、優しい嘘を贈る。

奥にある階段を上った先には、モデルルームのような美しい部屋が広がっていた。

どうやらここが住宅スペースであり、リビングらしい。白いカウチの後ろにある大きな窓からは海が見え、思わず感嘆の息をこぼしてしまったほどだ。

二人掛けのダイニングテーブルの前に腰を下ろした私と聡美は、オープンキッチンでお茶を淹れてくれているりとの背を眺めていた。


「ねえ、篠宮」


お茶請けを片手にやって来るりとへと、聡美は前のめりで話しかける。


「なに?」


りとはお洒落な焼き菓子を箱から出しながら相槌を打っていた。


「あの人は篠宮のお兄さん?」


「違うけど」


「じゃあ従兄?」


白いカップに注がれた紅茶がゆらゆらと揺れる。
りとは自身のカップにスティックシュガーを二本入れると、口元だけで微笑んだ。


「それも違う」


紫さんという人は身内ではないのか。

ならどういう関係なのかと思ったが、聞くのはやめにした。なんとなくだが、りとは自分のことを根掘り葉掘り聞かれるのは嫌なのではないかと思った。