ティーカップを渡したらすぐ戻ろう……。



そう思って、家政婦さんが用意してくれたカフェ バタフライのティーカップを持ってリビングへと向かう。



大きなダイニングテーブルで、にこやかな母親に向かい合って立つ後ろ姿。




少し短めの髪の毛は無造作に整えられ、



パリッとした白いカッターシャツを纏った背中は、程良く広い。



その後ろ姿に、



ティーカップを握っていた聖梨の手は、何故か小刻みに震えた……。



ゆっくり歩み寄った聖梨を振り返った彼に、



「っっ!!」




聖梨は思わず手に持っていたティーカップを絨毯の床に落とした。



「ヤダッ。聖梨ちゃんったら何してるの~」



テーブルの向こう側からの母親の声も右から左で、



聖梨は怪訝そうに自分を見下ろす視線を見つめていた。




カフェ バタフライの高校生ウェイター 高原 皇楽は、



聖梨の理想の王子様その人だったのだ。



紅潮した頬と、潤んだ瞳で呆然と見上げる彼は、




眉を顰め、どことなく鬱陶しそうにため息をついた。




「……邪魔くさ」