ゼヌ『始』

 「おかえりなさい」がなかった。

 
 気付いたのだ。違和感の正体に。

 
 わかっていたのだ。朝に。


 だが、何をすればそれが変わるのかなど


 わからなかったのだ。


 一秒でも時間が止まればいい。
ドアを開けた瞬間そうおもったのだ。
目の前で中年の男に犯されている愛人。

泣いて、叫んで、喚いて、逃げようとしている。
 が、その足掻きは中年の男に通じず、
愛人はその中年の男にされるがままだった。
触られ、入れられ、やられ、やられるがままだった。

天野はどうしたか?
体が動かなかったのだ。

悲しい姿で踊った男女が卑しい声を出すのだ。

天野はどうしたか?
叫んだのだ。