「気持ち伝えずに我慢してるなんて悠斗らしくねーよ。いいじゃん。いくら反対されようが。かっさらうくらいのガッツ見せろよ」
愛しくて。
大切で。
側にいたくて。
いて欲しくて。
誰が反対しようが今すぐかっさらって、俺のにできたらって。そう思うよ。
そんなこと、今までに何度も考えた。
いや、結衣の顔を見るたび、今でもそう思う。
結衣が隣にいない未来なんて、俺には考えられないんだ。
だけど……。
「かっさらったところで、あいつを傷つけるだけだろ」
「え?」
「結衣の手を引いてかっさらって逃げたら、結衣は母親に一生罪悪感を持ち続けなきゃならない。ただでさえ、今もこうして俺と過ごすことで母親を裏切ってんだ。これ以上あいつに罪悪感を背負わせたくない」
本当だったら、言葉を交わすことすら許されない俺達の関係。
それにも関わらず10年前、俺のわがままで結衣に母親の気持ちを裏切らせることになってしまった。
秘密を背負わせてしまった。
これ以上そんな思いを、結衣に強いるわけにはいかない。
「じゃあ、結衣ちゃんとの未来を諦めんのかよ」
眉をひそめ、納得がいかない様子の翔吾。
そんな翔吾を尻目に、スマホを地面に置き空を仰げば、群青色の中に一筋の飛行機雲が描かれていた。
……そういえば、“あの日”もこんな空だったな。
ゆっくりと目を閉じれば、呆れるほどに浮かんでくるキミの顔。



