あれは確か、5歳くらいの頃だったと思う。



『悠斗の宝箱にしていいよ』



そう言って母親に渡された、とあるテーマパークのキャラクターが描かれた缶箱。


親戚家族から、テーマパークに行ったお土産として貰ったものだ。


元々中にはクランチチョコが入っていたけど、それも数日前に食べ終わって、カラフルな缶箱だけが残った。


捨てるにしてはデザインが可愛いと言って、母親はそれを俺のためにとっておいたらしい。



『宝箱……』



宝箱ということは、“大切なもの”を大事に大事にしまっておく箱ということだけど、その時の俺には、大切なものって言われてもいまいちピンとこなくて。


いつまでたってもその宝箱の中身は、空っぽのままだった。








俺は、小さい頃から少し変わっていたらしい。


というのも、全くと言っていいほど“欲”というものがなかった。


母親が言うには、何かが欲しいと言って泣いてねだったことはなかったし、友達と物の取り合いをしたこともない。


夢中で遊んでいたものを取り上げられても嫌な顔一つせず、すぐに違う物で遊び始めるような、そんな欲の“よ”の字もない子供だったらしい。


だから当然、宝物と呼べるほど執着するものなんて何一つなかった。




あの日、彼女に出逢うまでは───。