なんだろうと振り返れば、お母さんがリビングからこちらに向かってやってくるところだった。


お母さんは、はるくんの存在に気がつくと、少し驚いた顔をして足を止める。



はるくんの家で話をしたあの日から、お母さんは前より少し仕事を減らし、休日にはこうして家にいることが多くなった。


どうして?なんて聞けないけれど、多分、私があの日、“寂しい”と言ってしまったからだと思う。


お母さん、気にしてるのかな……。


だけど、後悔はしていないんだ。


だって、前よりちょっとだけお母さんとの距離が、近くなった気がするから。


“嬉しい”だなんて、私ってば勝手だよね。




「おはようございます。今日は、結衣さんを一日お借りします。帰りは、あまり遅くならないように送り届けるんで、心配しないでください」



毅然とした態度でそう言うと、はるくんはお母さんに向かって綺麗に頭を下げる。


しかし、お母さんは、感情の読み取れない表情でじっとはるくんをみつめたかと思うと、何も言わず踵を返し、またリビングの方へ戻っていってしまった。



「は、はるくんごめんね!お母さん、相変わらずで……」


「いや、何も言われなかっただけ進歩でしょ」



進歩……かぁ。



「……してるのかなぁ……」