────何で、こんな事態になってしまったんだろう?



はるくんのお母さんは眉を釣り上げ「一体どこのコンビニまで行ってたの?」と言いかけた所で、手に持っていたマグカップをダイニングテーブルの上にゴトッと落とした。


大きな目をさらに大きく見開いて、ポカンと口を開けたまま固まっている。


驚くのも無理はない。


買い忘れた夕飯の材料の調達をまかせた息子が、びしょ濡れの女の子を連れ帰ってきたあげく、さらにそれが、自分の天敵ともいえる相手の娘だったのだから。



「す、すみません。お邪魔します……」



私は、蚊の鳴くようななんとも頼りない声を出しながら、へなへなと頭を垂れた。








事の発端は数分前。


私は、ついにはるくんと想いが通じ合い、はるくんの腕の中で、今までに味わったことのないような幸福感で満たされていた。


私の体をスッポリと包み込む大きな体。


熱い体温。


固くて広い胸板。


ゴツゴツした腕。


どれも私とは違って、男の人に抱きしめられるのってこんな感じなんだ……。といつまでたっても心臓が鳴り止まない。



もう、どれくらいこうしているだろう?


はるくんに抱きしめられているのは凄く嬉しいけど、このままでは心臓がもちそうにない。



「……さすがに離れるか」


「……う、うん。そうだね」