翔吾には、結衣とあったことの詳細は話してない。


男同士で、いちいちそういう話をしたくないってのもあるけど、何となくコイツには情けないとこを見せたくないから。


でも、察しのいいコイツのことだから恐らく、大体どんな状況かは悟っているんだろう。


その証拠に、夏休み前から顔を合わすたび、何か物言いたげにじと目を向けてくる。


気づかないふりしてやり過ごしていたけど、そろそろ潮時らしい。


「蒔田さん、あんな可愛い格好して、あれお前に会いに来たんだろ?」


「……うるさい」


「お前、そんな鈍いヤツじゃないだろが。蒔田さんの気持ち、気づいてないはずないよな?蒔田さんは、お前のこと……」


「うるせぇっつってんだろ!!!」



思わず感情的に言葉を吐き出すと、近くの木に止まっていたセミがジジッと音を立てて飛んで行った。


それからゆっくりと体を起こすと、立てた膝に腕を乗せ、気持ちを落ち着かせるように息を吐く。


視界の端で、翔吾が驚き固まっているのがわかる。



「お前が思ってるほど、簡単なことじゃないんだよ」


「悠斗……」



結衣は10年前、確かに俺と一緒にいたいと言ってくれた。


自惚れかもしれないけど、10年間、ずっとその気持ちだけは変わらずにいてくれたんじゃないかと思う。