「ぜひ、彼氏とデートの時に使ってね」と言って、イタズラっ子のような笑みで微笑まれてしまった。


「か、彼氏なんていません!」


「あれ?そうなの?結衣ちゃん可愛いからてっきりいるものだとばかり思ってたよ」


「ぜ、全然そんなことありません!!」


「え〜?あ。じゃあさ、好きな人は?」



────ドクン。


茜先生にそう訊ねられ、浮かんだのはたった一人の顔。


だけど、すぐにそれを振り払い、茜先生の言葉にかぶりを振った。



「……いま……せん」


「……んー、そっか!じゃあ、もし結衣ちゃんに好きな人ができて、その人に自分を見てもらいたいって思った時にはぜひ使ってみて?結衣ちゃん、本当にとっても似合ってるから」



茜先生によって、再び手に戻されたそれをキュッと握る。


自分を見てもらいたい?


そう思える人が、この先現れるとは到底思えないけれど。



「……ありがとうございます」



遠慮がちに私がそう言うと、茜先生は両方の口角をめいっぱい上げてニッコリと微笑んだ。







茜先生を見送った後、私は自身のベッドの上で仰向けになり、真っ白な天井を見つめていた。


茜先生に施してもらったメイクは、茜先生が帰った後落としてしまった。