どんなにつまらなくても、どんなに憂鬱でも、学校に行きたくないなんて思ったことは一度もなかった。


むしろ、夏休みのような長い休みなんて、なくなればいいと思っていた。


だって、休みの日は、はるくんに会えない。


同じマンションに住んでいるのに。


すぐに会いに行ける距離なのに。


もしも、風の噂でお母さんの耳にでも入ったら大変だから。


8階と4階の少しの距離も、宇宙のように遠くに感じた。


だから学校は、唯一はるくんに会える大切な、大切な場所だった。




それなのに……。


今は、夏休みという制度に感謝しかない。


まるで私なんて見えていないかのように、私の横を通り過ぎていくはるくん。


目すら合わないはるくん。


そんなはるくんに、毎日会わなくてすむから。


もう“幼なじみ”ですらなくなってしまったんだなぁって、悲しい気持ちにならなくてすむから。







「うん。完璧!それじゃあ、今日のところは終わりにしよっか」


「ありがとうございました」



学校が夏休みに入ると、すぐに家庭教師が家に来るようになった。


先生の名前は、相田茜(あいだあかね)さん。


夏休みに入ってから、もうかれこれ2週間、週に3回のペースで私の勉強を見にきてくれている。


茜先生は、ここら変でも有名な国立大学の学生さんらしい。