はるくんの家の階に来るのだってすごく久しぶりで、この階のボタンを押すってだけでも緊張して。


何とか、ない勇気を絞ってここまで来たんだ。



よ……よし……!


深呼吸をしたら、このボタンを押すんだから!


絶対押すんだから!



スーパーの袋を置き手を広げ、私は思い切り鼻から空気を取り込む。


そして、口からゆっくり息を吐き出し「よし!」とインターホンに指を近づけた。


その時。



「こんばんは」


「ひやぁ!!」



────ピンポーン。



あ。


あーーーーっ!!!!




「……こ、こんばんは……」



錆び付いたロボットの如く首を回して、挨拶をしながら通り過ぎるご近所さんにぎこちない笑顔で応える。



押しちゃった……。


どうしよう!!


本当に押しちゃったぁぁ!!!



深呼吸したら押すと決めていたはいいものの、どうやら全く覚悟なんてできていなかったらしい。


驚いた拍子に押してしまったインターホンの前で私はアタフタ大パニックを起こしていた。



『……はい』


「っ……」



数秒後、インターホンに出たのはさっき話した時よりも掠れた声のはるくんで……。



『どちらさまですか?』


「…………ゆ、結衣です」



私は観念したようにそう告げる。



『…………は?結衣?』