「ううん。行くわけじゃないの。はるくんのお母さんが家にいたら大変だし……」
「ふーん。じゃあ、トイレにでも駆け込むつもりだったわけか」
わざとらしい口調でそう言う古賀さん。
私は唇を引き結び、顔をうつ向ける。
「ち、違うの。はるくんの家に行くことなんてできないことはわかってるんだけど……。だけど、いてもたってもいられなくて……」
そう。
急いで帰ったところで、はるくんの家の階でエレベーターを止めることすらできないだろう。
わかってる。
急ぐ理由なんて私にはないってこと。
だけど、今朝はるくんの声を聞いてから、少しでもいいから側に行きたい気持ちばかり膨らんで。
授業になんてちっとも身が入らなくて。
気づけば、体が勝手に動いていた。
「あんたってなんでそういちいちこじらすわけ?いいじゃん。家まで行ってやれば」
「そ、そんなの……っ」
「無理じゃなくない?母親がいるか、聞いてみりゃいいじゃん。それでいないなら行きゃいいわけだし」
古賀さんは、さも簡単なことのようにアッサリそう言ってのけるけど、そんなの……。
「そんなの、はるくんは迷惑だよ……」
私と古賀さんの間に、少しの間沈黙が訪れる。



