『ねぇ、結衣?』
『なぁに?お母さん』
『あのね。お母さん、結衣と一緒に暮らしたい街があるんだ』
『うん!いいよ!お母さんとだったら、どんな街でもきっと楽しいもんっ!』
そう言って抱きつく私を、お母さんは優しく包み込む。
私の頭をなでる手も、とても優しい。
お母さんの言う街ってどんな街だろう?
おばあちゃんと暮らしているこの場所みたいに、田んぼや畑がいっぱいあるのかな?
私と同い歳くらいのお友達が近くに住んでいたりしないかな?
お母さんが住みたい街だもん。
きっと、とっても楽しくて、とっても素敵な街だろうな。
お母さんの胸に埋めていた顔を離し、そっとお母さんを見上げる。
きっと、私と同じようにお母さんもワクワクしているに違いない。
そう思って。
だけど。
見上げたお母さんの表情は、なぜだかとても悲しそうで……。
『お母さん……?』
『結衣。あの街に戻ったら、お母さんの言う通りにしなさい』
『……え?』
『誰にも文句を言わせないように、優秀な人間になるの。例え誰であっても、弱みを見せちゃダメ。お母さんの言う通りにしていれば、恥をかくことなんてないから』
『お母さ……』
『あなたは、黙って私の言うことを聞いていればいいの』