滴る鼓動、振り向く夏の日、恋の予感。


パッと手を離されて、先輩が立ちあがる。
もう行ってしまうのかな。たまたま開け放たれた指導室の中で、私を見つけて声をかけただけ。泳げないと分かったから帰ってしまうのかな。


受験生の身分で、夏休みはほぼ塾や学校で潰れてしまう中、今度はいつ会えるか分からない。そう思うと先輩が消えていく背中を見たくなかった。

「やっと俺が受験終わったら、次はお前だろ。全然会えなくてつまんねえ」
「……先輩?」
「俺さ、美空が合格するまでは良い子で待ってやってるから絶対受かれよ」

その意味が分からず数秒固まった。先輩は私のあこがれの人で、将来オリンピックに出るような人で、しかも男の人魚って感じでたくましいのに綺麗な人。

だから信じられなくて、目を見開く。額に滲んだ汗が、顎に伝い落ちていく。
ようやく冷房が効いてきたのに、顔が熱い。

「お前と一緒にまた部活したいし、いっしょに帰りたいし、それ以上のことも勿論、我慢してた分、いっぱいするから」

「あの、蒼人先輩?」

「だってお前も、俺が好きだろ?」