「さっきのお礼とちょっとしたお願いをしたくて、君を捜してた。ランドルフがひょっとしたら知ってるかもっていうんで、ここに連れてきてもらったんだ。もう一度会えて、本当に良かった」

たとえさっきまでは王子に対して恋心がなかったとしても、輝くような笑顔を向けられて、両手を握られながらそんなことを言われると、今この瞬間に恋に落ちてしまいそうだ。

――エミリアはぼんやりとそんな事を考えていた。

少し離れたところでみんなを見守っているランドルフの存在も、『それみたことか』と言わんばかりのフィオナとアウレディオの視線も、気にならないわけではなかったが、エミリアはそれ以上に目の前の本物の王子様に、魂を吸い取られていた。

「エミリアっていうんだね……」
フェルナンド王子には、エミリアがの男装なんてまるで意味がないようだった。

「私はレディを男とまちがうような野暮はしないよ」
碧色の瞳をパチリと片方瞑りながら、悪戯っぽく笑う表情も実に魅力的だ。

(もういいや……ランドルフ様のことも好きだけど、王子にも憧れる恋多き女でいいです。私……)
誰にともなく降参の白旗を上げたエミリアは、

「君に折り入って話があるんだけど」
より一層近づいた王子の顔に、ドキドキとさらに胸を高鳴らせた。

「これから祭りの間、私の傍にいてくれないだろうか?」
王子の言葉も、ただただ耳に心地よく、薔薇色の頭の中を素通りしていく。
しかし――

「はい?」
最後の理性までは、エミリアは失っていなかった。