うな垂れたエミリアの耳に、遠くから呼びかける声が聞こえる。

「おーい。おーい」

訝しげに辺りを見回してみると、城壁から続く細い道を走って、こちらに向かってくる人影が二つ見えた。
背が高くてがっしりした体つきの一人は、おそらくランドルフ。
そしてもう一人は――日の光にも負けないぐらいに輝くあの黄金色の髪の人物は――。

「まさか……!」
息を呑むエミリアにつられて、アウレディオとフィオナも小道の方をふり返った。

「ねえ、あれってもしかして……?」
「ああ、そうだな」

めいめいにくつろいで座っていたアウレディオとフィオナが、さっと居住まいを正す。
慌ててエミリアがそれに倣う間にも、二人の青年は、三人のもとへとたどり着いた。

「やあ、勇敢なお嬢さん。さっきはどうもありがとう」
恭しげに上半身を折り曲げてお辞儀し、優雅な動作で手に取ったエミリアの手の甲に挨拶の口づけを落としたのは、やはりこの国の王子――フェルナンド・ディ・エテルバーグ――その人だった。