不自然な体勢で固まっていた人々がいっせいに呪縛から解き放たれ、てんでに自由に動き始める。
押されて大きく体勢を崩したエミリアだったが、露台の上で王子が飛んで来た矢を剣でしっかりと打ち落とす姿だけは確認できた。

「きゃああああ!」
異変に気が付いた露台の上の人々は、貴人を守るため動きだし、中庭の群集も自分勝手に逃げ始める。

地面に膝をつく格好になっていたエミリアは、王子の無事にホッと胸を撫で下ろしながらも、自分自身の身の危険を感じた。
(ち、ちょっとまずいな……)

逃げる人々に蹴り倒され、このまま踏まれたらどうなるだろう、などと考えながら、頭を抱えうずくまるエミリアを、誰かが抱き上げた。
「馬鹿じゃないのか、お前! 死にたいのか!」

投げつけられた言葉は激しく、睨み据えられた蒼い瞳には本当に怒りの炎が燃えていた。
しかしエミリアを抱え上げた腕の力は強く、人込みをかきわけて進む意志の強さは確固たるものだった。

「ディオ……」
線が細いとばかり思っていたが、いつの間にか自分より遥かにたくましくなっていたアウレディオの首に縋りついて、エミリアは安堵のあまり涙が零れた。