(同じ思い出を共有している幼馴染がいてくれるって、本当に嬉しいことだな……)

二人の顔を見比べながらそんな思いを噛みしめていたエミリアの胸に、ふいに目の前に立ち塞がったアウレディオの表情を見て、ドキリと緊張感が甦った。

たった今まで頬を綻ばせていたはずのアウレディオは、これ以上ないくらい真剣な顔で、月光を背に、静かにエミリアを見下ろしていた。
蒼い瞳が星の光にも似た煌きを放つ。

「エミリア。ランドルフ様の背中に、痣はなかったよ」

今まで聴いたこともないほど優しい穏やかな声に、声の主がアウレディオだとエミリアが認識するまで、長い時間がかかった。
そしてその言葉の意味を理解するまでにも――。

何か言おうと口を開きかける前に、フィオナがそっと近くに来て、エミリアの手を握る。
緊張のあまり冷たくなっていた自分の手と同じくらい冷えた指先を感じて、エミリアはふっと肩から力が抜けた。

「そっか……」
アウレディオに負けないくらい穏やかな声が出て、エミリアは自分でも驚いた。

あんなに、『ランドルフ様とキスなんてできるわけない! どうしたらいいのよ!』と悩んでいた自分は、ふいにどこか遠くに行ってしまった。

無茶な計画をこれ以上実行しなくても良くなって、ホッとしたはずなのに、この気持ちはなんだろう。
胸にぽっかりと穴があいてしまっている。