リンデンの街が夕焼けに染まる頃。
鐘の音にあわせて次々と家路につき始めた臨時衛兵達の波に逆らって、アウレディオはランドルフへと歩み寄った。

「ランドルフ様、俺、お願いがあるんですけど……」
エミリアは最高潮に達した緊張で眩暈を感じそうな思いだったが、アウレディオが次に発した言葉は、予想外のものだった。

「俺、騎士に憧れてるんです。できるなら少しだけ、騎士団の様子や宿舎なんか見せてもらうことはできないでしょうか?」

ランドルフは悩むこともなく、すぐに頷いた。
「ああ。明日の感謝祭では街の人も城の中庭までは入ることができるし、騎士団の宿舎も歓談室ぐらいは開放されている。君だったら……大丈夫だ。今から少し行くかい?」

「はい!」
元気よく返事したアウレディオの顔は、背を向けていたためエミリアには見えなかった。
けれど、ランドルフが捜し人かどうかを確認するためだけとは思えない、本物の喜びが混じった声のようにも聞こえた。

(ディオ?)
まさか本当に騎士に憧れていたのだろうか。
エミリアが首を傾げた瞬間にアウレディオがふり向く。

夕焼けに染まる淡い金色の髪。
その間から見え隠れする自信を湛えた蒼い瞳。

(あとは俺にまかせろ)

声にならない言葉が聞こえたような気がして、さまざまに思い悩む心は全て、エミリアの中から消し飛んでしまった。
(ディオ……)

力強く頷いてエミリアに背を向け、ランドルフと共に去って行くアウレディオの背中。
いつの間にか頼もしさを感じさせるほどになったんだなと、母親のような感慨に浸って見送り、エミリアはフィオナと共に家路についた。

今日はエミリアの家に泊まることにしたフィオナと、ただ静かにアウレディオの帰りを待った。