「どう? 心の準備はできた?」
翌日、城に着いた早々、エミリアは今度はフィオナに問いかけられた。

腕組みしながらアウレディオと何事かを相談した末に、フィオナは、
「もしも人違いだった時のために、時間は残しておいたほうがいいと思う。いい思い出、もうできたでしょ? もういいよね?」
念を押すかのようにエミリアに向かってくり返す。

「……フィオナ?」
(確か昨日は、私の心を労わるような発言をしてくれたような……? それでやっぱり友だちって良いものだと、感動を覚えたような……?)

エミリアが首を捻る間にも、フィオナはアウレディオと二言、三言交わし、頷きあった。
「目印があるなんて良かったじゃない。じゃあ今日中にアウレディオが確認するから、本人だったらさっさとキスしてね、エミリア」

あまりの言い草に、エミリアはぽかんとしてしまう。
フィオナにいったいどんな心境の変化が訪れたのだろう。
しかしその疑問は、エミリアに背を向けながら呟いたフィオナの独り言で、すぐに解決した。

「今日でこの仕事終わりにしないと、明日はもう感謝祭。実際に多くの人出の中で城の警備をするなんて……絶対に嫌」

がっくりとエミリアは脱力した。

「エミリア、どうしたの? オーラの色が濁ってるわよ?」

俯くエミリアの周囲を見回しながら、フィオナはいつものように解説してくれたが、エミリアには反論する気力さえなかった。

(渦ぐらい巻くわよ……私の昨日の感動を返して。フィオナはやっぱり、フィオナだ……)
昔から変わらない親友の姿を、悲哀を込めてしみじみと再確認しているだけなのに、

「エミリア? まさか背中の痣を確認する役も、自分でやりたかったの?」
フィオナは少し眉を寄せながら、思いもかけないことを言い出す。

「そんなわけないでしょう!」
エミリアの叫びを、アウレディオが肩を震わせて聞いているのがまた、どうにも腹立たしかった。