「ここでお昼ですか?」
手元をのぞきこみながら尋ねてみたが、ランドルフの前には何もなかった。

「いや。今日は昼食がないんだ」

「えええっ?」
事もなげに言ってのけるランドルフに、驚きの声を上げたのはアウレディオだった。

「信じられない……昼抜きなんて、夕方にはもう俺、動けない……!」
アウレディオが細身のわりには凄い食欲の持ち主であることをよく知るエミリアは、クスリと漏れかけた笑いを、なんとかかみ殺した。

「王族の方々が日に二度の食事だから、それにあわせてらっしゃるんですか?」
フィオナの鋭い読みに、エミリアは
(ああそうか!)
と内心頷いたのだったが、ランドルフは静かに首を横に振った。

「いや……恥ずかしい話、私の失敗なんだ。食事係の者はきちんと用意してくれたのに、私が忘れてきてしまった。申し訳ないことだが、朝、騎士団の宿舎を出る時には、まだはっきりと目が覚めていないことが多くて……実は私は、騎士団一、忘れ物が多いんだ」

(ランドルフ様が? 失敗? 忘れ物?)

ぱちくりと瞳を瞬かせるエミリアに、ランドルフが照れたような笑顔を向けた。

普段の精悍できりっとした横顔とはまた違った、柔らかで魅力的な笑顔。
エミリアは息が止まってしまいそうだった。