カランカラン。
鐘の音と共に、大きなお屋敷の古い扉が開く。

隙間からこちらをのぞく大きな蒼い瞳に、エミリアの心臓がトクンと跳ねた。

「何?」
ぶっきらぼうな言い方はいつもどおり。
そのことになぜか今だけはホッとする。

「お母さんが、夕食たくさん作ったから、一緒に食べようだって」
「そう」

せいいっぱいの努力で普段どおりを装っているエミリアを観察するかのように、アウレディオは一言言ったまま、微動だにしない。

黙ったまま見つめられているあまりの居心地の悪さに、エミリアはたまらず問いかけた。
「何?」

瞬間、アウレディオの蒼い瞳が、柔らかな前髪の向こうで輝きを増す。
「お前が俺に聞きたいことがあるんだろ……何?」

思いがけない言葉にドキリと飛び上がりながらも、動揺している自分を知られたくなくて、エミリアは必死にがんばった。
「そう思うってことは、心に何かやましいことがあるんでしょ? ……それって何?」

アウレディオが細めの眉を片方上げて心持ちエミリアを見下ろし、不敵な表情をする。
「俺にはなんにもないよ。それよりお前だろ? ……何?」

アウレディオが、すでにこの『何』の応酬を面白がっていることは、エミリアにもよくわかっていた。
エミリア自身も、さっきまでの憂鬱が嘘のように心が軽い。
思わず笑いが込み上げてきそうなのだが、だからといってここで負けるつもりはさらさらない。

「……ディオが言ってよ。何?」
「い・や・だ。お前が言え。何?」

がまんできずにエミリアはとうとう吹き出した。

「やだもう、切りがない……!」
「ハハハッ、本当に!」

アウレディオもまた、エミリアにつられたかのように声を上げて笑った。

(二人でこんなふうに笑ったのなんて、何年ぶりだろう)

どんな時も表情を変えないと言われるアウレディオの笑顔は、小さな頃と同じお日様のようなキラキラの笑顔だった。