「ランドルフ様もどうですか? 甘いもの嫌いですか?」
自分も一枚つまみながら、促したアウレディオの声に従って、

「いや、そんなことはないんだが、食べる機会はそんなにないな」
ランドルフがエミリアのクッキーを一枚取り上げる。

一挙手一投足も見逃すまいと見つめ続けるエミリアの目の前で、一口、また一口と口に入れ、見る見るその表情が変わった。

「おいしい……!」
「でしょう?」
まるで自分のことのように誇らしそうに胸を張るアウレディオが、エミリアはなんだかおかしい。

しかしそれにも増して、驚いた顔で手にしたクッキーをまじまじと見つめているランドルフの様子が嬉しかった。

誰よりもたくさんのクッキーを、黙々と小さな口に詰めこみ続けていたフィオナは、ランドルフをチラリと横目に見て、
「うん。エミリアのお菓子を初めて食べた人の、いつもどおりの反応だわ」
と評価した。

「エミリオよ。エ・ミ・リ・オ!」
慌てて小声で訂正するエミリアに、ランドルフが灰青色の瞳を輝かせながら問いかける。

「もう一つもらえるかな?」
「ど、どうぞ……」
エミリアは震える手で、クッキーの包みをさし出した。
ようやく初めての会話が交わせたことに、泣きたいくらいに感動していた。

つい昨日まで絵を眺めるばかりだった憧れの人が、今、エミリアの作ったお菓子を食べてくれている。
しかも肩が触れそうなくらいにすぐ近くに座って、穏やかな笑顔を向けてくれる。

信じられない状況に緊張するばかりだったエミリアの心が、ようやく今の状態を、現実のこととして受け止められるようになってきた。

(本当……なんだよね……)
素直に嬉しいという感情がこみ上げて、こわばっていた頬が綻ぶ。

今ならもっと、自分からランドルフに話しかけることもできそうな気がした。