エミリアたちが座る周りには、小花をつけた雑草があちらこちらに生えている。
ぽつぽつと咲く花を揺らして、爽やかな風が吹き抜けていく中、見上げれば空は青空。
感謝祭が近づいた初秋のリンデンは、目に映る風景も肌で感じる空気も、実に清々しかった。
その清々しさに負けないくらいに爽やかな騎士が、エミリアのすぐ近くに座る。
小さな額に収まる絵の中ではなく、実際に隣にいる。
(本当に信じられない!)
ドキドキと高鳴る胸が苦しくて、息を吸うのさえままならない。
言葉など出てくるはずもなくおし黙るばかりのエミリアを、アウレディオがふいにふり返った。
「エミリオ。はらぺこじゃ、このあと仕事にならないぞ……どうせ何か持ってるんだろ? 今朝いい匂いがしてた……」
「あっ!」
エミリアは慌てて、腰に下げていた荷物袋に手を伸ばした。
「すっかり忘れてた!」
中から取り出したのは小さな包みだった。
両手に載せると、隣に来たフィオナが心得たかのようにそっと開いていく。
「今日は香草入りのクッキー? ふーんいい香り……」
お菓子作りはエミリアの趣味であると同時に、使命であると言ってもよかった。
たどり着きたい味があって、忙しい家事と仕事の合間を縫っては、ああでもないこうでもないと試行錯誤をくり返している。
目指していたのは、小さな頃によく作ってもらった母の味だった。
母が突然いなくなり、大好きだったお菓子も食べられなくなってから、エミリアは母の味を再現することに砕身した。
このまま忘れてしまいたくなどなかった。
『もっとこんな味だったよね……? 固さはどうだった?』
アウレディオと二人で、かなり研究を重ねた。
学校を卒業したあたりから、アウレディオが手伝うことは滅多になくなったが、エミリアは一人でも時間を見つけては作り続けた。
その甲斐あってか、今ではかなり母の味にも近づけたと自負している。
ぽつぽつと咲く花を揺らして、爽やかな風が吹き抜けていく中、見上げれば空は青空。
感謝祭が近づいた初秋のリンデンは、目に映る風景も肌で感じる空気も、実に清々しかった。
その清々しさに負けないくらいに爽やかな騎士が、エミリアのすぐ近くに座る。
小さな額に収まる絵の中ではなく、実際に隣にいる。
(本当に信じられない!)
ドキドキと高鳴る胸が苦しくて、息を吸うのさえままならない。
言葉など出てくるはずもなくおし黙るばかりのエミリアを、アウレディオがふいにふり返った。
「エミリオ。はらぺこじゃ、このあと仕事にならないぞ……どうせ何か持ってるんだろ? 今朝いい匂いがしてた……」
「あっ!」
エミリアは慌てて、腰に下げていた荷物袋に手を伸ばした。
「すっかり忘れてた!」
中から取り出したのは小さな包みだった。
両手に載せると、隣に来たフィオナが心得たかのようにそっと開いていく。
「今日は香草入りのクッキー? ふーんいい香り……」
お菓子作りはエミリアの趣味であると同時に、使命であると言ってもよかった。
たどり着きたい味があって、忙しい家事と仕事の合間を縫っては、ああでもないこうでもないと試行錯誤をくり返している。
目指していたのは、小さな頃によく作ってもらった母の味だった。
母が突然いなくなり、大好きだったお菓子も食べられなくなってから、エミリアは母の味を再現することに砕身した。
このまま忘れてしまいたくなどなかった。
『もっとこんな味だったよね……? 固さはどうだった?』
アウレディオと二人で、かなり研究を重ねた。
学校を卒業したあたりから、アウレディオが手伝うことは滅多になくなったが、エミリアは一人でも時間を見つけては作り続けた。
その甲斐あってか、今ではかなり母の味にも近づけたと自負している。
