(お母さん、困ってる……)
急いで駆け寄ろうとしたエミリアだったが、その時なぜか、ものすごい力でアウレディオに建物の陰にひっぱりこまれた。

「えっ? なに? どうしたの?」
理由を尋ねようとした口も、華奢なわりには大きな手で、あっと言う間に塞がれてしまう。

アウレディオは声には出さないで視線だけで、母のほうを見てみろとエミリアに促した。
それに従ってゆるゆると視線を向けた先に見たものを、エミリアはこれから先、きっと一生忘れないだろう。

はじめは夢かと思った。
自分の目がおかしくなったのかとも思った。
アウレディオが何か悪戯をしかけたのだろうか。
それとも悪い冗談か。

さまざまな可能性が頭に浮かんでは消えていき、もう何がなんだかわからなくなった時、エミリアはアウレディオの手をふり解いて建物の陰から飛びだしていた。

「お母さん!」

母は空を飛んでいた。
それも背中に生えた真っ白な羽をはばたかせて。