その人はまるで昨日までもこの家にいたかのように、ニッコリと優雅にエミリアに向かって笑いかけた。
「あらっおはよう、エミリア」

朝陽を背に受けて黄金色に輝く長い髪。
小さな白い顔。
まるで女神のような神々しいほどの微笑み。

(……そ、そんな……まさか……?)

幻を見たのかと、エミリアは何度もごしごしと目を擦ってみたが、目の前の人物はとうてい消えそうにはない。
しかも、とっくに食卓についていた父のとろけそうに幸せな顔を見る限り、どうやら本物にまちがいらしい。

「おおおお母さんっ?」

驚きと衝撃と疑惑の思いがごちゃ混ぜになったエミリアの大声にも、母の極上の微笑みが崩れることはなかった。

「うん、そうよ。エミリア……た・だ・い・ま」
あまりにも緊張感のない、明るい無邪気な声。

十年間必死に張り続けてきた気力が一気に萎えてしまって、エミリアは台所の入り口に、ヘナヘナと座りこんだのだった。