母は長椅子に腰をおろして、エミリアの質問に一言一言頷きながら、真剣に答えてくれた。

そしてエミリアは、それがアルフレッドであるにしろないにしろ、ミカエルである人物とは、キスしたら最後、もう二度と会えないということがわかった。

「エミリア……ごめんね……」
泣き出してしまった母には何の罪もない。
そんなことはエミリアにもわかっていた。

恨むなら母が言うところの『神様』だ。
しかしすっかり脱力してしまったエミリアは、俯いたまま、『神様って意地悪だね』と呟くぐらいしかできなかった。

『聖なる乙女』としての仕事を成功させて母と一緒に暮らすか。
自分の好きな人をミカエルの姿に戻さないために母を諦めるか。

エミリアには最初から、どちらか一方しか選ぶ権利はなかったのだ。

これが一週間前の話だったら、エミリアは迷わず母を選んだだろう。
しかし、小さな頃から好きだった、そしてようやく帰ってきてくれた、ひょっとすると自分に好意を抱いてくれているかもしれないアルフレッドが、これきり目の前からいなくなってしまうのかと思うと、もうそんなに簡単にどちらかを選ぶことはできない。
――できるわけがない。

泣き崩れてしまった母と共に、エミリアは呆然としたまま長い時間、居間の椅子に座り続けた。