「お母さん!」
呼びかけると手を振って答えてくれるから、エミリアはすぐに走り出す。

けれどもさっきから立ち止まったままのアウレディオは、まるで根が生えてしまったかのようにその場所から動かなかった。

(ディオ……)
微動だにしないアウレディオのどこか悲しげな様子に、エミリアは意図的に意識の外に追いやっていた大切なことを思い出した。

(そうだった……上手くミカエルを捜し出さないと、このままお母さんと一緒には暮らせないんだった……)
小首を傾げて嬉しそうに二人を待ってくれている母。
少女のような優しいあの人を失いたくなくて、アウレディオもエミリアを手伝ってくれていたのに――。

「ディオ……ごめん」
そっと呟いた。
アウレディオは小さく首を振って、エミリアの顔を真っ直ぐに見つめる。
そんな彼にそれ以上何と声をかけていいのかわからなかった。

(お城に行けたことですっかり舞い上がって、自分のやらなきゃいけないことをあんまり意識してなかった。こんなんじゃお母さんの娘失格だね……それに引き換えディオは、いつだってお母さんのために動いてたんだもの……)
考えれば考えるほど、自分はなんと自分勝手な人間なのだろうと思ってしまう。

(ゴメンね。お母さん。ゴメンね)

心の中でくり返すエミリアに母は天使の笑顔で呼びかける。
「お帰り。エミリア」

いつまでもこの笑顔に迎えられたいと思う。
それがエミリアの願い。

「お帰り。アウレディオも」
穏やかに笑い返すアウレディオも、抱えている思いはきっと同じはず。