替え玉の王女と天界の王子は密やかに恋をする

フェルナンさんの腕から赤い血が噴き出した。



「この野郎!」

今度はマリウスさんが、男に向かって行った。
だけど、男はそのまま森の奥に逃げて行った。



「フェルナン!大丈夫か!?」

「あぁ…大丈夫だ。
それより…サキ…サキはなんともないか?」

「は、はいっ!」



まだショックから抜けきらなくて…しかも、フェルナンさんの腕から流れる血を見たら、余計に体が震え出した。
マリウスさんは袋から何かを取り出し、フェルナンさんの傷を手当てした。







「これで大丈夫だ。」

「ありがとう。」

フェルナンさんの腕には、白い布切れが巻かれた。



「思ったより深い傷じゃなくて良かったな。」

「あぁ、そうだな。」

「フェルナンさん…す、すみません!
私のせいで……」

そこまで言ったら、なんだか胸が詰まって涙がこぼれた。
そんな私に、フェルナンさんは静かに微笑んだ。



「何を言ってるんだ。
私がしくじっただけじゃないか。
正直言うと、私は今まで喧嘩のひとつもやったことがないんだ。
だから、こんな怪我をする…恥ずかしいよ。」

フェルナンさん…
喧嘩もしたことないのに、暴漢に立ち向かってくれたんだ。
そう思ったら、さらに申し訳なくなって来て、私はお礼も言えずに泣き出してしまった。



「サキ……」


フェルナンさんに不意に抱き締められて、私は身を固くした。



「本当に無事で良かった。」



フェルナンさんの囁き声に、私は嗚咽が止まらなくなった。