替え玉の王女と天界の王子は密やかに恋をする

「静かにしろ…!」



(え…!?)



首筋に冷たい感覚を感じ、私の意識は一気に覚醒した。



「そのままゆっくりと起きろ…」

「は、はい…」



私は言われるままに体を起こした。
その間も、首筋から冷たいものは離れない。



「おい、起きろ!」

私が立ち上がると、男が大きな声を出した。



「サキ!」

二人共、目を丸くして私を見てる。
私は、恐怖のあまり、声を出すことさえ出来なかった。



「女を返してほしければ、食料を渡せ!
素直に渡せば、女に危害は加えない!」



どうして食糧なんかのためにこんなことをするのだろう…?



(あ……)



そうだ…
この森は、一度足を踏み入れたら二度と出られない魔の森…
ってことは、この人…いつからかわからないけど、以前からこの森で迷ってて…?



「わかった!食料ならやる!
だから、その子を離せ!」

「食料が先だ!」

「わかったよ…ちょっと待ってくれ…」

そう言って、マリウスさんはかがんで袋の中を探った。
すると、林檎に似たサパーという果物を男に向かって投げつけた。
サパーは、男の頭に命中した。



「サキ、逃げろ!」

男がひるんだ隙に私はその場から逃げ出し、マリウスさんの後ろに隠れた。
それと同時に、フェルナンさんが男に食らいつき、もみ合いになった。
男はナイフを持っている。



「あぁっ!」



男のナイフが、フェルナンさんの腕を切り裂いた。