「フェルナン…服の仮縫いだ。
……おぉ、ヒルダもいたのか?」

ルーサーは、舞踏会に着ていく自分たちの服を仕立てる際に、私のものも一緒に注文してくれた。



「仮縫いですと。それは素晴らしい。
ルーサー様、私も見に行ってよろしいですか?」

「それは構わんが…」



ヒルダは、仮縫いに着いて来た。
とてもおかしな気分だ。
なぜ、ヒルダは私達の仮縫いに興味があるのか…



しかし、ルーサーが良いと言ったのだ。
私には「来るな!」とは言えない。



「ルーサー様、こちらへ。」



ルーサーの着ていた服を、使用人たちが脱がせ、仮縫いのブラウスを着せた。
仕立て屋が、合わないところはないかと入念に調べる。
次にブラウスの上に着る燕尾服を試着する。



正装すると、さすがにルーサーは様になる。
さすがは王子だと思える品格や貫禄のようなものを感じる。
続いてマーカスの仮縫いが行われ、そして、私の番となった。



私の着ていた服が脱がされた時…



「し、失礼します。」



ヒルダが、そそくさとその場から出て行った。
ルーサーはくすくすと笑っている。



「まるで、少女のようだな。
ヒルダは、ずいぶんとそなたにご執心のようだ。」



マーカスもルーサーと同じように笑っている。
だが、私は笑う気にはなれなかった。
何かがおかしい。
まさか、ヒルダが本気で私を想っているはずはない。



では、さっきの言動はどういうことなのか?
私は、肌身離さず付けていたペンダントを、今はかけてはいない。
ここに来る前に、外してズボンポケットに入れておいたからだ。
上からまさぐると、ペンダントは確かにあった。



だから、ヒルダはペンダントの紋章を見たわけではない。
では、なぜ?



私にはあのペンダント以外、何ひとつ、思い当たる節はなかった。