フェルナンさんが出してくれたのは、豆と野菜の切れ端みたいなものが入った味の薄いスープと、かなり固くなったパンだった。
お世話になってる以上、文句は言えない。
どう考えても、フェルナンさんは裕福ではなさそうだ。
なのに、私を助けてくれたなんて、やっぱり良い人だよね。



「あ、あの…フェルナンさんは、お仕事は何をされてるんですか?」

「山で薬草を採ってる。」

「そうなんですか。」



薬草を採ってるってことは…
それを例えば薬屋さんに持って行ったりする仕事なのかな?
薬を作ってるわけじゃないんだよね、きっと。



「昨夜は、ブラッサの町に届けに行ってたんだ。
だから、あんなに遅くなった。」

「そ、そうなんですね。」

よくわからないけど、きっとブラッサっていうのは遠い町なんだろう。
でも、そのおかげで私は助けてもらえたわけで…
やっぱり、運が良かったとしか思えない。



「あ、良かったらどうぞ。」

私は小林さんにもらったクッキーをフェルナンさんにすすめた。



「ありがとう。」

フェルナンさんはクッキーを口に運んだ。



「うまい!こんなうまい干菓子は初めてだ。
誰が作ったんだ?」

「え…と、それも憶えてないんです。」

「これはよほど腕の良い者が焼いたのだろうな。」

フェルナンさんはよほどクッキーを気に入ったのか、ほとんどひとりで食べてしまった。



「それで…君はどの程度、記憶を失ってるんだ?
名前は憶えてたよな?」

「……え?」



あ、そうだった!
私は、記憶喪失ってことにしてたのに、さっきついうっかり名前を言っちゃった!