「王女様、何かご存知ありませんか?」

「え?えっと…それは……」

「マリウス様、王女様は侍女のことなど、ご存知ありません。」

「でも、あの時…
サンドラさんは、門のところでサキを見かけ、すぐに王女様に会わせた。
それは一体どういうことですか?」

「それは……」

サンドラさんも痛いところを突かれて困っている。
本当にどうしよう?
何か言わなきゃ、何か……



「サ、サキは…故郷の母の体調が悪くなり、それで故郷に戻りました。
そ、そうですよね?サンドラ?」

「え?は、はい、そ、そうでした。
サキは、故郷に帰りました。」

「サキの故郷とはどこなのです?」

「そ、それは…わかりません。
故郷に帰るとだけ言って、出て行きましたから。」

あまりにも嘘くさい芝居だ。
当然、マリウスさんは信じていなさそう。
でも、本当のことが言えない以上、嘘を貫き通すしかない。



「先ほどは、サキのことなど知らないと言われた…
なのに、なぜ…」

「それは…その…
そう!ついさっき、思い出したのです。
サキが故郷に……」

話している途中で、急にカーテンが開かれた。
そこに立っていたのはフェルナンさん…



「……サキ……」

フェルナンさんに名前を呼ばれただけなのに、私は胸がいっぱいになって何も言えなくなって…
目に涙を浮かべたまま、ただただ首を振った。



「サキ…どうした?
何があった?」

「わ、私は…サキなどではありません。
この国の王女シャルアです。」

「いや…君はサキだ!」

そう言うと、何をする間もないままに、フェルナンさんの唇が私の唇を塞いだ。