ふと力が抜け、暗い視界の中に、オアシスが見える。


『目が覚めましたか?』

その声に体を起こすと、鳥肌が立った。

沼の中で見た女性が、目の前にいるからだ。

しかもオアシスの中に、浮いている。


『怖がる事はありません。私は、遥か昔からこの中に住む者。そなた達には妖精と呼ばれています。』

「あなたが、オアシスの……本当にいたんだ。」

『見える者と見えない者がいるそうです。そなたには私が見えるようでよかった。』

心無しか、微笑んでいるように見えた。


『それよりも、そなたに伝えてほしい事があるのです。』

「私に?」

自分を指差すと、その女性は頷く。

どうやら嘘では、なかったようだ。


『この前、ここに来た若者に伝えてほしい。』

「……ジャラールさんにですか?」

『もう私に忠誠を尽くさなくてもよいのです。私を信じてくれた人々の国が無くなってしまった事は、既に分かっているのです。』